ある!不思議体験


不思議なバイク事故のイメージ画像
不思議なバイク事故のイメージ画像

 今まで信じていたことに深い疑いをもつようになる体験。そういう体験は誰にでもあるものではないだろう。たとえば、工学部で物理を学んだ者であれば科学的に考える手法を身に付けると思う。つまり、人間と違って自然法則は厳密でエラーも例外もない。そのような信念を抱いていた若者がある日を境にして、180度の思考の転換を迫られる出来事に遭遇するのである。以下、回想録である。 

 ある日、その信念にヒビが入るようなことが若者に起こった。いつものように90㏄のバイクに乗っていてスピードを上げたとき、突然、停まっている車列の間から頭を出したトラックに激突するという事故を起こしたのだ。

 

 車で渋滞する列のすぐ右の車線を飛ばしていたバイクは、時速70キロを超えており、ブレーキ不能の瞬間的な衝突だったので、衝撃を受けたトラックの運転手は失神してハンドルにおおいかぶさり、クラクションがいつまでも鳴り響いたという。若者はトラックと衝突する瞬間、驚愕とともに激しい怒りが沸き上がったのを憶えているが、記憶と意識はそこで途絶えた。

 

 気がついたとき、アスファルトの車道に横たわっていて、青空を眺めながらただ鳴りやまぬクラクションの音を聞いていた。アスファルトの路面に叩きつけられた若者は、意外にも、右手の拇指つけ根の小骨にヒビが入っただけで、それ以外は体に損傷を受けていなかった。念のために頭と腹部のレントゲン撮影と脳波検査をした病院でも、指の骨折を除いてどこにも異常はないと言われた。現場検証した警察官は「奇跡」という言葉を何度も口にした。

科学的唯物論では説明できない事象

 しかし、時間とともに若者自身は奇跡という言葉に違和感を覚え、腑におちぬ想いを募らせていった。

 若者は高校時代、工学部への進学をめざして3年間、理科系の勉強をしてきた。だから時速70キロを超える速度で激突したバイクが、どれほどの衝撃を受けたかぐらいはわかる。秒速およそ20メートルでトラックに激突したわけだが、それはほぼ20メートルの高さから垂直に地面に落下した瞬間の速度に等しい。

 

 つまり若者はバイクに乗ったまま、20メートル下の路面に落下したのと同じほどの衝撃を受けたのである。それがどれほどの衝撃かは、バイクを見れば歴然としていた。それはハンドルとボディが原型をとどめぬまでに潰れ、前輪と後輪のタイヤがくっついていた。 

事故の運動エネルギーはどこに消えたか

 若者の身体に起こったこの事故で、体にほとんど怪我がなかったということが、若者には逆に納得がいかない気がした。それはどう考えても、あり得ないことだと思えたのである。よく列車に飛び込んで、かすり傷ひとつ負わなかった人はいる。それはレールとレールの間に伏せた格好になり、その上を列車が通り過ぎたからである。つまりこうした例では、厳密に言えば体と列車は衝突していないのだ。

 

 若者の場合は違う。間違いなくバイクと一緒にトラックに衝突し、凄まじい衝撃を受けてアスファルトに叩きつけられたのである。しかも若者はヘルメットを着けていなかったうえに、真夏だからクッションになるような厚い服も着ていなかった。衝撃を吸収するようなものは一切何も存在していなかったのである。いったい若者の体がそのとき有していた大きな運動エネルギーは、体に損傷を与えずにどこへ伝わったのか?

 

 科学的唯物論の申し子であった若者に、物理的に説明できないことが起きた瞬間でもある。科学的唯物論に対する疑念がかすかに生まれ若者から消え去ることはなかった。